家族が知っておきたい高次脳機能障害の10の症状

 

交通事故によって脳に外傷を負った方の中には、一見普通に見えても、事故前と比べて、記憶力や集中力が低下したために勉学や仕事に支障が出たり、感情のコントロールができなくなったために人付き合いが上手くいかなくなったりする方がいらっしゃいます。

このような大きな交通事故に遭うと、事故発生直後から被害者本人とそのご家族は辛く苦しい時間を過ごしながら、様々な問題に直面することになります。

特に、被害者のご家族にとって、悲しみの中での被害者ご本人への介護の問題は、身体的にも精神的にも負担となって重くのしかかります。介護のために仕事をやめたり、変えたりせざるを得ない方もいます。それだけ介護の負担は重く、事故後の生活状況が一変することがあります。

高次脳機能障害とは、脳に損傷を受けたことにより、認知、記憶、思考、注意の持続等、「高次脳機能」に障害が生じた状態のことをいいます。

高次脳機能障害の特徴は、他の病気と違って、一見正常に見えるため、周りの人が気づきにくいところにあります。

交通事故に遭遇する前と後で、被害者の方の様子が少し変わったと感じられるときは注意して下さい。記憶力や集中力が低下している、感情の起伏が激しくなり、感情のコントロールが上手くできていないといった症状が認められる場合、高次脳機能障害が疑われます。

高次脳機能障害は、一見すると「少し体調がよくないだけ」「疲れているのかも」と、特に気にしないで見過ごしてしまうことがあります。

しかし、高次脳機能障害は、労働能力を大きく制限し、その後の生活にさえ大きな影響を及ぼす障害です。高次脳機能障害も、他の後遺障害と同様、早期に適切な治療を開始することで、高次脳機能障害の症状を軽減できる場合があります。

「事故に遭ってから、どこかおかしい気がする。」といった些細なことでも、高次脳機能障害と疑われる事情があれば、まずは高次脳機能障害に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

ここでは、高次脳機能障害について、症状の見落としがないよう、ご家族が知っておきたい症状をご説明します。

① 注意障害

② 記憶障害

③ 遂行機能障害

④ 社会的行動障害

⑤ 失認

⑥ 失行

⑦ 失語

⑧ 失読失書

⑨ 地誌的失見当

⑩ 病識欠如

① 注意障害

1 症状の内容

注意障害は、高次脳機能障害において、多くみられる障害です。そして、注意障害は大きく分けると5つに分類されます。

①持続的注意の障害

持続的注意とは、注意力や集中力を持続させて、一つの行動を続けることをいいます。持続的注意の障害があると、まとまった時間仕事をする、本を一章読むなどの一定の行動をとることが困難になります。

②選択的注意の障害

たくさんある情報の中から余計な情報に気が散らずに、今必要な情報だけを選ぶことをいいます。

例えば、新聞のテレビ欄から番組を見つける、人混みから友人を見つけるなどのことをいいます。

選択的注意の障害があると、あちこちに気が散って集中できず、見落としや聞き落としが増えることになります。

③同時処理の障害

同時処理(注意の分配)とは、いくつかのことに同時に注意を向けながら、行動することをいいます。

例えば、助手席の人と話をしながら車を運転する、3人以上で会話をする場合などです。

④注意の転換の障害

注意の転換とは、1つの情報に注意が向けられているとき、より重要な他の情報に気づいて注意を切り替えることをいいます。

例えば、パソコンの作業をしていて、電話が鳴ったので電話に出るという場合です。

注意の転換に障害があると、電話が鳴っていることに気づかなかったり、電話をとるとずっとそっちの方に意識が残り、パソコン作業に戻れなくなってしまうなどの症状が発生します。

⑤注意の容量の障害

注意の容量とは、文字通り、キャパシティの問題です。

注意の容量に障害があると、一度に処理できる情報の量が少なくなってしまいます。

2 症状例

・昨日教えたはずの単純な仕事が今日になるとすっかりやり方を忘れている。

・電話にでたものの、要件の中身をすべて覚えておくことができず、誰からかかってきた電話かも忘れてしまう。

・2つのことが同時にできない。

・やかんを火にかけて、テレビを見ていたら、やかんのことをすっかり忘れて水がなくなり、やかんの取っ手が溶けてしまった。

・午前中にがんばりすぎて、午後は疲れが出て何もできなくなってしまう。

・2つ以上指示されると、覚えられない、あるいはパニックになってしまう。

・朝、家族とけんかしたままの気持ちをひきずって、気持ちの切り替えができない。

・仕事を速くやるとミスばかりで、できあがった書類が使い物にならない、正確にやるように指示すると今度はいつまでたってもできあがらない。

3 家族の対応方法

目の前の事に集中できる環境を作る。例えば食事の際は、テレビやラジオはつけない。人の少ない静かな場所で食事をさせる。むやみに話しかけない。半側空間無視を伴う場合は、食器を見えやすいところに置く。 注意すべき事項がよく認識されない場合は、「メモ」を作成して、事前にどんなことに注意をすればいいのか、本人にわかりやすくする。

4 必要な検査

ウイスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WCST)

持続的注意集中検査(CPT)

トレイル・メイキングテスト

標準注意検査法CAT(持続的注意集中検査CPT、聴覚性検出課題、SDMT、PASAT)

など

② 記憶障害

1 症状の内容

記憶障害は高次脳機能障害においても、最も多く見られる症状です。

記憶は、①記銘→②保持→③想起の3段階に分けられます。

まず、①記銘とは、新しい情報をとりいれること、そして、②保持とは、情報を貯蔵しておくこと、③想起とは貯蔵した記憶を取り出すことをいいます。

記憶障害は、各段階のいずれかに障害が発生し、新しいことを覚えて、思い出すという一連の流れが阻害されるものを言います。その他の記憶障害については、いろいろと分類があります。

①前向健忘と逆向健忘

前向健忘とは、事故の前と後に時間軸を設定し、発症以後のことを忘れる、覚えられない症状をいいます。逆向健忘は、逆に事故以前、発症以前のことを忘れてしまうことを言います。

②記憶の質的分類

まず、陳述記憶と非陳述記憶に分けられます。

陳述記憶には、エピソード記憶(自分が体験した事柄に関する記憶)と意味記憶(終戦記念日はいつか、など)があります。

非陳述記憶には、自転車をこぐといった技能、パソコンのスイッチを入れて使用するなどの、意識せずにできる記憶をいいます。

③作動記憶(ワーキングメモリ)

作動記憶(ワーキングメモリ)とは、ある目的のために、必要な情報を一時的に記憶しておく記憶のことを言います。例えば、ネット通販で何かほしいものがあったときに、目的物にたどり着くためには、検索欄に言葉を入れる必要があります。その言葉を一時的に覚えて、検索するような場合です。

あるいは、電話をかけるときに、メモを見て、一瞬だけ電話番号を覚えて、ボタンをプッシュするというような場合です。人と会話をしていても、多少話がそれても、ワーキングメモリがあるために、何の話だったか忘れずに元の話に戻ることができますが、ワーキングメモリに障害があると話がどんどん別の方向にそれて行ってしまうことがあります。

④展望記憶の障害

展望記憶とは、明後日の9時に病院に行くというような未来の自分の行動についての記憶をいいます。

展望記憶に障害があると、同じスケジュールについて、何度も何度も聞いたりします。

⑤作話

実際に体験していない出来事を誤って追想する現象をいいます。精神疾患による妄想とは異なります。自分の記憶の欠損やそれによる当惑を埋めるためになされます。

⑥メタ記憶

メタ記憶とは、自分の記憶能力についての認識や知識をいいます。高次脳機能障害の場合は、病識に欠ける場合が多く、メタ記憶に障害がある場合が多いと言えます。

2 症状例

・現実に起きていないことを作り話してしまう。

・毎回のように、ものをどこにおいたのかわからず、探し回る。

・今さっき自分で言ったこと、言われたことを忘れてしまう。

・携帯電話や鍵をどこにおいたのか忘れてしまう。

・次に病院に行く日にちを何度も何度も繰り返して聞く。

・気に入った話を何十回でも繰り返して、あたかも初めてする話のようにする。

3 家族の対応方法

メモ、携帯電話、カメラ、スケジュール帳などの外部の記憶媒体に記録することを習慣づけさせる。何かをしたら携帯電話のカメラで撮っておくだけでも、自分が買ったものは何か、いくらお金を使ったかなどの確認を自分で後から行うことができる。

障害により、疲労しやすくなっている(易疲労性)ので、過密なスケジュールを組まない、休息を十分にとりつつ、規則正しい生活が送れるようにする。間違った情報を記憶してしまうと修正が困難なので、正確な情報を覚えるようにさせる。

スケジュール帳などで、常時確認することを習慣づけさせる。

文字だけでなく、絵や写真を使って、様々な角度からの情報を与える。

間違いを繰り返し指摘されることは本人にはストレスになる。間違った情報に触れさせないことも大切。

4 必要な検査

ウエクスラー記憶検査(WMS-R)

リバーミード行動記憶検査(RBMT)

三宅式記銘力検査

ベントン視覚記銘検査

など

③ 遂行機能障害

1 症状の内容

遂行機能とは、ある目的を達成するための一連の行為を要領よく行う能力のことを言います。遂行機能障害があると、目的をもって物事を順序立てて進めていくことが困難になります。

我々が、何かをするときは、①目標設定→②計画を立案する→③実行する→④評価・判断するという順番で進めていきます。

話が大げさに聞こえるかもしれませんが、日常的にご飯を作る場合もこのような流れで見ていくとわかりやすいと思います。

例えば、味噌汁をきちんと作ろうと思ったときに、①目標は決まりました。②計画を立案ですが、何でだしをとるのか、具材は何にするのか、がこれにあたります。③現実に、実行する場合も、例えば、豆腐とじゃがいもを同じタイミングで入れたら、じゃがいもが固いままか、豆腐にすがたってしまうかといった問題が生じます。我々はこういう細かいことも要領よく進めているのです。そして、味噌を入れて味見をして、調整したりもします。

遂行機能障害があると、

・計画性がない

・段取りが悪い、要領が悪い

・融通が利かない

・決められない

・行動の開始の障害

が生じるために、誰にでも当たり前にできることをすることが困難になるのです。

2 症状例

・目の前の課題に取り組もうとしても、「開始」することができず、時間だけがすぎてしまう。

・次の予定をいつにしますか?と聞かれるとどうしていいかわからなくなってしまう。

・「適当なところで切り上げる」「一段落したところで休憩して」といわれてもどうしていいかわからなくなる。

・物事の順番や優先順位をつけられない。

・乗る予定だった電車が止まったりしていると、パニックになってしまう。

・事故前は料理が得意だったのに、カレーすら作ることができない。

・「卵を買ってきて」というお使いをお願いしたら、何種類かある卵のうちどれかを選ぶことができない。

・単純な仕事を依頼したのに、自分の独自のやり方にこだわって、すごく難しい仕事にしてしまう。

・以前から仕事にしていた請求書作成の「請求書」の書式がちょっと変わっただけで、どう書いていいかわからなくなってしまう。

3 家族の対応方法

声かけや援助があれば、できることが一人になるとできなくなってしまう。

家族が、一日の行動計画表を作成して、何時になったら何を最優先にすべきかを決める。

携帯電話やスマートフォンのアラーム機能を活用する。午後3時からリハビリをすると言う場合に、3時になるとアラームがなるので、自分で気がついてこうどうをすることができるようになる。

4 必要な検査

・ウイスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WCST)

・トレイル・メイキング・テスト(TMT)

など

④ 社会的行動障害

1 症状の内容

社会的行動障害とは、対人関係を円滑に進められない障害をいいます。

社会的行動障害は大きく分けると4つに分かれます。

①人格機能の低下

人格機能の低下とは、具体的には依存性や退行を意味します。つまり、大人が子どもと真剣にチャンネル争いをしたり、父親が子どものお菓子を取り上げて食べてしまったりすることもみられます。

また、一人で買い物に行ったりすることが不安で誰かが付き添っていかないとダメだったりすることがあります。

②自己制御の低下

自己の感情をうまくコントロールすることができず、些細なことでも激怒したり、ちょっとでも気に入らないと怒鳴り散らしたりするようになったりします(感情のコントロール)。

また、好きな食べ物を好きなだけ食べてしまうと言うような自分の欲求を抑えられない症状が現れることもあります(衝動・欲求のコントロール)。一つの事にこだわり、状況に合わせて柔軟に対応したりすることが困難になることもあります(固執性)。

見知らぬ人が、ちょっとしたマナー違反をすることが許せず、公共の場で注意をしたりすることによりトラブルを招くこともあります(独善的な処罰感情)。

③対人技能拙劣

相手の気持ちを察したり、場の空気を読むことが困難になります(メタメッセージの解読困難)。

その場の空気を考えずに、その場に合わない自分の話を延々としたり、周りの人が困るような状態になります(談話障害)。

また、キャッチセールスの人の話を本気にして高額な商品を契約してしまうこともあります(被影響性の拡大)。

④意欲の低下

自発的な行動をとることができず、一日中ベッドで寝ているなどの症状が見られます。

2 症状例

・何かを覚えようとしても、覚えられない。

・異性のメールアドレスを教えてもらったので、相手の都合に関係なく、一日数十通のメールを送信してしまう。

・自分が決めたことにこだわり、就寝時間がすぎても終わるまでやろうとし続ける。

・友達の輪に入れない。

・順番を待ったりするなど、我慢することができない。

・周囲の状況を考えずに、ささいなことで注意をして、トラブルになる。

・何事にも無関心で、やる気がない。

・どこに行くのにも一人では行けず、誰かに付き添いをお願いする。

・残ったお菓子を誰が食べるかで、子どもと本気でけんかする

・生活の事を考えずに、ネットショッピングで毎月異常な金額の買い物をする。

・夕食はハンバーグという予定だったのが、材料がなくて、別のメニューにしたら激怒する。

・特定の事にこだわり、シャンプーがもったいないからと洗髪をしない。

・ささいなことで、急に激怒するため、周りの人が困ってしまう。

・周囲のことを全く気にしない。急な仕事が入って、周りの人が慌てて、ばたばたしているのに、自分だけいつものようにマイペースで仕事をしている。

・話をしているうちに、話がどんどんずれてしまい、何の話をしているのかわからなくなってしまう。

・学生の場合、周囲の状況が気になって、授業に集中できない。

3 家族の対応方法

本人が行動記録をつけて、だれに、どういう状況で、どういうときにどういう言動をしたのかを記録させる。その中から、エッセンスを抜き出して、どういう場合に急に怒り出すのかなどのてがかりを見つける。そのような原因を減らすように環境調整をしていく。これらは、専門家の援助がないと難しいかもしれません。

興奮状態にあるときに、過度に注意したり制止したりすることは良くないので、そのような場合は原因から引き離し、後で話し合うことが有効です。

無気力な場合は、一緒に目標設定をし、その達成まで一緒に付き合うことや声かけ等を適切に行うことが重要になります。

急に怒り出すような場合は、原因が決まっているようなこともあるので、その原因を特定し、そのような原因に近づけないことも大切です。

⑤ 失認

1 症状の内容

失認とは、視覚、触覚、聴覚などの感覚機能は正常であるにもかかわらず、ある一つの感覚を介して、対象物を認識することができない症状をいいます。

失認の症状がある感覚以外のルートを介せば認識可能な場合もあります。例えば、目で見てもそのものが何か認識できない場合であっても、耳で聞けばそれがなんであるか理解できると言うこともあります。

失認は、大きく分けると4つに分けられます。

①視覚性失認、相貌失認、聴覚性失認、触覚性失認

視覚性失認とは、視力や視野に問題がなく、目の器官自体は正常であるにもかかわらず、その物を見て、対象が何であるかがわからないという症状をいいます。

相貌失認とは、家族や友人、職場の同僚などのよく知っている人の顔を見て、誰であるかがわからない症状を言います。顔を見ても誰かはわからないけれど、声を聞けば誰かがわかるということもよくあります。

聴覚性失認とは、聴力はあるが、その音が何であるのかが認知できない症状を言います。例えば、自宅のインターホンの音がなっても、それが何を意味するのかわからないという症状です。

触覚性失認とは、触覚等が正常であるにもかかわらず、触った物がなんであるのかわからないという症状を言います。

いずれにも共通するのは、目や耳などそれぞれの器官は正常であると言うことです。目に異常があって見えない、耳に異常があって聞こえないと言うことではなく、目で見た物が何であるのか、聴いた物が何であるのか、脳が判断できない症状を言います。

②半側空間無視

半側空間無視とは、文字通り、前方の視野の半分を認識できないという症状をいいます。理論上は、右半側空間無視もありますが、症状としては軽く、後遺障害として残るのは圧倒的に「左半側空間無視」が多いと言えます。

症状としては、顔や視線が右側を向いていたり、左側から刺激が入っても、気づかないという症状があります。例えば、食事の際に、左側におかれた皿の食べ物には手をつけず食べない、ノートにメモするときには、左側には空白が残り、右によせて書く、本の左側のページを読まない、左側にいる人とぶつかったり、左側の壁にぶつかるという症状があります。

③身体失認

身体失認とは、文字通り、自己の身体を認識することができなくなる症状を言います。例えば、体の左半身に麻痺があるにも関わらず、そのことに気がつかなかったり、体の半分の存在にすら気がつかなくなってしまうこともあり、整髪の際に片側だけ整髪する、ひげを剃るときに片側だけそって、そり残しに気がつかないなどの症状があります。

④病態失認

病態失認とは、自分の病いに気がつかない症状を言います。

目が見えないのに、見えているかのように振る舞って失敗したり、「意味をなさない発言(ジャルゴン発話)」をして、相手に話が通じていないのに、そのまま話を続けるなどの症状が見られます。また、自分の記憶力が落ちていることを自覚はしていても、深刻さに欠けるため、客観的に判断される記憶力の低下よりも軽く認識していることもあります。

2 症状例

・よく知っているはずの人の顔がわからない。

・左側の壁や人にぶつかる。

・食事の際、左側のおかずなどに手をつけない。

3 家族の対応方法

左側半側空間無視がある場合は、当初は右側から話しかける、右側に必要なものをおくなどの情報を右側から入れるようにして、徐々に左にも注意を向けられるようにしていくことが重要です。

左側の食べ物を残してしまう場合は、左側にも皿があることの注意を促すなどしていく。

相貌失認の場合は、顔を見てもわからなくても、声を聞けばわかることもあります。

4 必要な検査

・標準高次視知覚検査(VPTA)

・聴性脳幹反応(ABR)

など

⑥ 失行

1 症状の内容

失行とは、それぞれの身体の機能には障害がないにもかかわらず、行おうとする運動をできない状態をいいます。

失行には、①観念失行、観念運動失行、肢節運動失行、②口腔顔面失行、③着衣失行、④構成失行があります。

①-a観念失行とは、物を使っていくつかの動作を組み合わせて一連の動作をすることができない症状をいいます。例えば、お茶の葉を急須に入れて、お湯を注いで、急須から湯飲みにお茶を注ぐというような動作です。

①-b観念運動失行とは、物品を使用しないでする動作ができないことをいいます。例えば、「おいでおいで」と手招きをする動作ができない、「バイバイ」と手を横に振る動作ができないような場合です。

①-c肢節運動失行とは、身体の一部を使って細かい動作をすることができない状態をいいます。例えば、衣服のボタンを留めることができない、箸を使って食事することができない、足でボールを蹴ることができないなどです。

② 口腔顔面失行とは、口や顔面の運動が意図的にできないことをいいます。例えば、ウインクする、口を開ける、舌を出すなどの行為を意図せずに無意識にすることはできても、意図的に動かすことができない状態です。

③ 着衣失行とは、日常生活において、衣服を適切に着ることができない状態をいいます。衣服の上下、裏表、左右の区別、ボタンをかけるなどができない状態をいいます。

④ 構成失行とは、構成対象の部分を空間的に配置して全体的なまとまりのある携帯を形成することができない症状をいいます。わかりやすく言うと、見えた物を空間的に把握できないという症状です。簡単な図形の模写や積み木の組み立てができない症状を言います。

2 症状例

・歯ブラシと歯磨き粉を渡してもどうやって使うのかわからない。

・衣服のボタンの掛け違いをなおすことができない。

・お茶の葉を急須に入れて、お湯を急須に注いでお茶を入れることができない。

3 家族の対応方法

まず、本当に失行なのかどうかを見極める必要があります。つまり、運動障害、感覚障害等がないかどうか、それぞれの器官は正常であるのに、できないのが失行に当たります。素人判断は難しいと思いますので、専門家の先生に評価してもらいます。

道具の使い方がわからないような場合は、一つ一つ新たに学習していく必要があります。本人は、やる気があってもできない状況なので、できないことに怒ったりしてはいけません。また、あるときはできても、できるときとできないときが出てくるのが失行の特徴なので、そのことをあまり言うことは好ましくありません。

4 必要な検査

・標準高次動作性検査(SPTA)

・WAB失語症検査

・標準高次視知覚検査(VPTA)

・ベントン視覚記銘検査

など

⑦ 失語

1 症状の内容

失語症とは、大脳の言語領域が損傷された結果、それまでに獲得されていた言語機能を操作する能力が低下あるいは消失した状態を言います。

失語症には大きく分けると4つの症状があります。

まず、①聴覚的理解の障害があります。

まず、「言語音」を認知できない、つまり、耳は聞こえていても、その音がなんと言っているのかがわからない状態があります。

次に、音は聞き取れても、それが自分の知っている言葉だと判断できない場合、言葉であることがわからないことがあります。

さらに、それが言葉だとわかっても、意味がわからないという症状もあります。我々が日常的に話す内容は、単なる言葉、単語ではなく、文章として意味をなしていますから、個々の言葉がわからなければ、文も理解することができません。

次に、②読解の障害があります。これも聴覚的障害と同様に、目は見えても文字として認識することができないことがあります。次に、文字として認識できても、存在する言葉として認識できないレベルもあります。さらに、言葉ということがわかっても意味がわからないという症状もあります。さらに、単語としての言葉が理解できても文としての意味がわからないという症状もあります。

次に、③発話の障害があります。頭の中に正しい目的物のイメージをしていながら、意図した言葉が言えない「喚語困難」があります。名称がでてこずに、「あれ」という言葉を多用したり、「スプーン」を指すのに、「カレー食べるときに使うやつ(迂回表現)」と行ったりします。また、「りんご」を「きんご」と言ったり(音性錯語)、りんごと言いたいのに「みかん」(意味性錯語)と言ったりします。新造語が出てきて、意味不明なジャルゴンを話したりします。

次に、④書字の障害があります。何かを書くと言うことは、意図した意味に合う言葉を選択し、それを文字に変換する過程がありますが、「つくえ」と書こうと思ったのに「くくえ」と書いてしまったり(音韻性錯書)、「つくえ」と書こうと思ったのに「いす」と書いてしまう(意味性錯書)場合があります。

2 症状例

・人の話を理解することはできるが、質問されても答えることができない。

・話す内容が意味不明なものになってしまう。

3 家族の対応方法

本人は、中身は理解できていてもそれを言葉に変換して話をすることが困難なので、質問する際は、YES,NOで回答できるような形にする。本人が何かを言おうとして、間違ったことを言ったとしても、文脈から理解できる場合は、推測して対応することが重要です。本人が、何かを言いたいのに言えない場合に、相手にしない、という対応はいけません。また、言葉をうまく話せないからと言ってコミュニケーションができないわけではなく、本人は何かを伝えようとしているかもしれませんので、積極的に話しかけることが重要です。

4 必要な検査

・標準失語症検査

・WAB失語症検査

・失語症鑑別診断検査

・重度失語症検査

など

⑧ 失読失書

1 症状の内容

失読失書の文字通り、失読は文字を読んで意味を理解することができないもの、失書は文書を書くことができないものをいいます。

2 症状例

・本が読めない

・お手本の文書と同じ内容の文書が書けない。

3 家族の対応方法

音読、書き取り、読解などの基本的なことを手伝う。

文字だけだとわかりにくい場合は、写真、絵などのわかりやすい情報を併用する。

4 必要な検査

・標準高次視知覚検査(VPTA)

・標準失語症検査(SLTA)

など

⑨ 地誌的失見当

1 症状の内容

地誌的失見当とは、簡単に言うと道に迷う症状です。

どちらかというと、独立した障害と言うよりは、他の半側空間無視や記憶障害、認知機能低下、注意障害等が複合したものといえます。

2 症状例

・よく知っている場所でも迷う。

・自宅のトイレの場所がわからなくなってしまう。

3 家族の対応方法

現在地からある場所に行く場合、道順を毎回同じものにする。迷いながら、正しい方向を探して、目的地に到達することが困難なので、迷わないように誘導する。それを繰り返すことにより、学習効果が上がる場合があります。道順に目印になるものを写真に撮っておき、目印を見つけたらどの方向に進むかなどを記載した地図を作る。

⑩ 病識欠如

1 症状の内容

病識欠如とは、病識、つまり、自分に症状があることがわからない状態を言います。高次脳機能障害を負った人の多くは、自分の症状を認識していません。記憶力が低下していることは認識している場合でも、本人の自覚と周りの人が見た状態を比較した場合、本人が考えているよりもかなり深刻な場合が多く、自己の症状を的確に認識していないという点で、やはり、病識は欠如していると言えます。

高次脳機能障害は、周りの人からも見えにくいものであり、本人に病識がないと、問題の本質が明確にならず、対応方法もわからないままになってしまうことも多いため、周囲の人がより注意していくことが重要です。

2 症状例

・車の運転はしてはいけないと言われているのに、事故前と同様に車の運転をしようとする。

・仕事を安請負してしまい、あまりにたくさんの仕事を抱えて、どこからやったらいいかわからなくなる。

3 家族の対応方法

車の運転等は話が別ですが、大きな問題に発展するものでなければ、本人に現実に体験させ、失敗した結果、本人にできないことを自覚させ、話会いを含めて、本人にわかってもらった上で、どういう風にしていくか考えて行くことになります。

 

 

 

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